レゲエDJからベンチャーキャピタリストへ | Shizen Capital マーク・ビベンズが語る、日本スタートアップ・エコシステムの未来

ZooKeep インタビューシリーズ
レゲエDJからベンチャーキャピタリストへ:
Shizen Capital マーク・ビベンズ氏との対話
インタビュアー:郡司史徳(ZooKeep株式会社 マーケティング責任者)
マーク・ビベンズ氏は、Shizen Capitalのマネージング・パートナーだ。東京を拠点とするアーリーステージVCで、第1号ファンドはDPI(*1)3.5倍、TVPI(*2)17倍。日本のVCマーケットでも屈指の実績を誇る。シリコンバレー育ちの元連続起業家にして、トライアスロン愛好家。かつてはレゲエDJとして活動し、20年以上にわたってヨーロッパと日本のアーリーステージに投資し続けてきた人物だ。
今回のZooKeep Academyインタビューでは、郡司史徳(ZooKeep株式会社 マーケティング部長)がマーク氏と対話する。テーマは、一見ばらばらに見えて、実はすべてつながっている。ダンスホール音楽、スタートアップの失敗、日本のIPO文化——そしてShizen CapitalがなぜZooKeepに賭けたのか。
*1)DPI(Distributed to Paid-In Capital):LPへの実際の現金分配額を投資元本で割った比率。未実現利益を含まない「実現ベース」の収益性指標。
*2)TVPI(Total Value to Paid-In Capital):実現・未実現を含むファンドのトータル価値を払込資本で割った倍数指標(例:1.5倍)。
この対談の二つの中心テーマ。
ひとつ目は「スタートアップエコシステムの循環速度」だ。人材と資金がスタートアップ・エコシステムでどれだけ速く循環できているか。この循環は三つのメカニズムで成り立つ。M&Aエグジット後に戻ってくるシリアルアントレプレナー("Serial Entrepreneur"、「連続起業家」)の存在。企業売却によって得られた資金で経済的自由を手にし、給与ゼロでも生活を支える経済力を持ちながら次のスタートアップの立ち上げに時間と労力を費やせるファウンダー。そして「セカンダリーマーケット」、アーリー投資家が、ポートフォリオ企業がエグジットする前にLPへ資本を還元し、その資金が間接的にアーリーステージのスタートアップ投資に流れ込む仕組みだ。
ふたつ目は「失敗を許容する文化」。失敗した起業家にセカンドチャンスを与える社会かどうか。それがスタートアップの誕生率を、そしてユニコーン輩出数を、決める。
マーク氏はこの二つの要素がスタートアップエコシステムの成長を劇的に変える様子を、すでにフランスで一度目撃している。失敗を忌避し、優秀な人材がスタートアップを敬遠していたフランスが、15年の間でヨーロッパ屈指のユニコーン輩出国に変貌した。日本は今、フランスと同じような転換点に立っているのかも知れない。日本政府の「ユニコーン100社」の目標が絵に描いた餅で終わるか、現実になるか。
このインタビューの主なポイント
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🎵 レゲエとの出会い
12歳のベルギーで、レゲエに撃ち抜かれた。
インタビューの冒頭ではいつもなら生い立ちから伺うのですが、マークさんの場合は少し違う入り方をさせてください。なぜレゲエなんですか?
よく調べてきましたね!はい、私はレゲエオタクなんです。きっかけは12歳のとき、ベルギーに住んでいた頃のことです。あのリズムに完全にやられた。ワンドロップのビート、ドラムとベースライン。最初に心を掴んだのはJimmy Cliff(ジミー・クリフ)の「Reggae Nights」という曲でした。そこからすぐにハマりました。聴けば聴くほど、レゲエが単なる音楽じゃないと理解した。それはレジスタンスの音楽であり、哲学でもあること。正義なき平和はないと訴える、言葉の達人たちの音楽。
それから何年かして、シカゴの大学に進んだとき、寮の同室の友人がラジオ局のオープンハウスに誘ってきた。彼はDJをやってみたかったらしい。結局、彼自身は自分は向いていないと判断して帰ってしまったが、私は残ってそのラジオ局で、本場ジャマイカ出身のレゲエDJ二人のアシスタントとしてのバイトをやらせてもらった。彼らが次に使うレコードを探したり、コレクションを整理したり、そういう仕事だったが、彼らはレゲエについてたくさん教えてくれたんだ。但し、いつしかちょっとしたビザ違反があって二人は母国へ戻らざるを得なくなり、ラジオ曲としてレゲエ番組を継続したかったので、たまたまその場にいて彼らの次にレゲエについて詳しいと思われた私がマイクの前に座ることになって、毎週日曜日に4時間の番組を持つレゲエDJになりました。
The Mavado Strategy(マバド戦略) 市場の声に耳を傾け、プロダクト・マーケット・フィットを掴み、そのフィットから最大限の収益を引き出す。勢いが落ちてきたら、初めて描き直しに入る。ダンスホールアーティストのMavadoがリスナーの需要を読んでヒット曲を量産するスタイルから命名。規律ある市場ドリブンの成長哲学。 |
The Kartel Philosophy(カーテル哲学) 市場に従うのではなく、市場が欲しがるべきものを自ら定義する。予想外のプロダクトを世に出し、競合が追いつく前に自らのヒットを塗り替える——継続的な自己破壊の哲学。ダンスホールアーティストのVybz Kartelのスタイルから命名。スティーブ・ジョブズ流の継続的イノベーション、「イノベーターのジレンマ」の逆転版。 |
マークさんのブログ記事でマバド戦略とカーテル哲学について書かれていましたが、ZooKeepのファウンダーであるケーシーと最初に出会ったとき、どちらのリズムを感じましたか?
先ずはちょっと解説してみよう。マバドというレゲエアーティストはマーケットインの申し子です。いま、市場のリスナーが何を求めているか、「何がウケるか」に耳をあて、それに完璧にフィットする曲を作り、ヒットしている間はその波を乗り続ける。勢いが衰えてきてから初めて、新曲の制作に取り組む。規律があって、市場ドリブンだ。プロダクト・マーケット・フィットを見つけたスタートアップが収益を最大化しようとする姿と重なりますね。
バイブズ・カーテルはまったく別次元のアーティストです。市場に従わない。逆に市場が何を欲しがるべきかを示すタイプ。誰も予想しなかった新曲をリリースして観客を熱狂させ、その余韻が冷める前に、次の新曲で自分自身のヒット曲を塗り替える。自分で自分の曲を創造的破壊(Creative Destruction)していくタイプだ。アップル創業者のスティーブ・ジョブズのアプローチと非常に似ていますね。
ZooKeepのケーシーはバイブズ・カーテル寄りと感じました。彼はすでに成功している人材紹介ビジネスを経営していた。でも彼のピッチの本質は「採用とタレントマネジメント業界の世界が変わり、受身で対応する前に、自分で先に変えていって主導権を握りに行く」というものだった。そういう発想ができる人は本当に稀で、ほとんど超人的な資質が要る。そういうファウンダーに出会ったとき、私たちは迷わず賭けに出ます。
マークの生い立ちと原体験
転校続きの少年は、「適応力」を武器にした。
フランス人とアメリカ人の両親を持ち世界各地で育ってきたマークさん。このような生い立ちの環境は、今のマーク・ビベンズにどのような影響を与えましたか?
父方のカリフォルニア移住者四代目、私を含めれば五代目です。フランス人の母は第二次世界大戦のさなかにヨーロッパで生まれました。これだけのファクトを取りあげても、彼らは特殊な価値観を持っていたことが想像できるかも知れない。命への畏敬と、無常を受け入れる心というか。
私が9歳か10歳のとき、父の勤務先の会社が東京オフィスを開設しようとしていた。彼の上司の上司は断り、父の直属の上司も断った。白羽の矢が立った父は母と相談し、二人は「Why not? やってみよう」と言って受け入れた。1981年、私たち家族は東京に移住しました。それが私の中にある種のウイルスを植えつけた。数十年後に発症することになる、世界中どこにでも行ってみよう、why not ウイルスを。その後、私たちはベルギーに移って、学校も何度も変わった。
学校を転々とすることで、否が応でも適応力が鍛えられる。誰もがお互い顔見知りの教室に飛び込んで、「どこの学校?」とみんなに聞かれる。毎回ゼロから人間関係を作る。それが究極的には、ベンチャーキャピタルの仕事への備えになったと思います。
そして両親は二人ともトライアスリートでもありました、それも狂ったように熱心な。トライアスロンは「苦しさと共存する力」を鍛えてくれる。凍えるほど冷たい水の中を泳ぎ、長距離をバイクで走り、もう終わりかと思ったところでランニングが始まる。その不快さへの耐性は適応力と表裏一体です。世界中どこにでも飛び立つ身軽い好奇心と、適応力と、耐える力、このような価値観を両親の二人から受け継いだと思っています。
最初の2社は失敗した。3社目の売却が、VCに転換するきっかけとなった。
マークさんは、VCを始める前にご自身でもスタートアップの創業経験がありますよね。最初の2社は失敗に終わりましたが、3社目のBirdView Technologiesは1999年にM&Aエグジットされました。BirdViewはどんな会社で、スタートアップ側にいた経験からファウンダーを評価するうえでどんなことを学びましたか?
今から振り返れば、BirdViewは時代を先取りしすぎた会社でした。SaaSという言葉が誰も知らなかった頃に、不動産ブローカー向けの、今でいうSaaSプロダクトを作っていた。毎晩、私たちのソフトウェアが中央のメインフレームデータベースにログインし、物件情報をスクレイピングして、利用客であった各社ブローカーのウェブサイトに自動反映する。月額サブスクリプション料金、継続収益、完全な垂直型ソフトウェア。1999年、ドットコムバブルの頂点でConstellation Softwareに買収された。今思えば完璧なタイミングでした。
そして、M&A契約に面白い条項がありました。BirdView社10人のチーム全員が3年間のロックイン(残留)を求められ、達成すればボーナスが支払われる。しかし、CEO(私)だけは、翌日付けで退任を求められていた。共同ファウンダーは後に「マークの方がいい条件だった」と笑っていました。彼は正しかったかもしれない。
その後、投資してくれていたVCが私に同情してくれて、ベンチャーキャピタルとは何かを教えてくれたんだ。そこで二つのことに気づきました。会社を作るよりこっちの方が自分は向いているかも知れない、ということ。そして何より、本当にこの仕事が好きだということ。ファウンダーを支援し、彼らが経験していることへの共感を育む機会。私自身がその立場にいたから、VCという仕事の価値がわかった。
Moxie & Humility Framework マーク氏が用いるファウンダー評価モデル。「Moxie(胆力)」とは、非対称な賭けに出る意志、自己破壊の覚悟、野心的な目標設定、大胆さの総体。「Humility(謙虚さ)」とは、自分より優れた人材を採用する自己認識力と、弱点を補うチームを能動的に作る力。最も投資に値するファウンダーは、この二つを同時に体現している。 |
『7年後にIPOを目指します』とピッチするファウンダーは、それは計画への甘さの表れか、あるいは本当に求めているのはイシューの解決ではなく、上場という名声なのかを教えてくれます。(マーク・ビベンス)
転換点、日本という「ブルーオーシャン」
フランスが15年でやったことを、日本はこれからやる。
フランスで15年間VC投資をしてきたあと、「日本が次のブルーオーシャン」だと確信させた具体的な転換点は何でしたか?
2000年代初頭のフランスは、今の日本と驚くほど似ている部分がありました。優秀な若者はグランゼコール(*フランス独自の超難関・エリート養成高等教育機関≒フランスのトップ校)に進み、卒業後は大企業でのキャリアが保証されている。スタートアップに入るのは「どこかで躓いたから」という目で見られ、自分で会社を作るなどエリートの選択肢にすら入らなかった。日本もほんの最近までそうでしたよね。
それが15年かけて劇的に変わるのを見てきた。フランスは今や約40社のユニコーンを輩出しています、GDPも人口も日本の約半分の国が。さらに重要なのは、そのユニコーンの70%以上が「Repeat Founders(連続起業家)」によって作られているという事実です。一度失敗した、あるいは小さなエグジットを経験してから再挑戦した人たち。フランス社会におけるスタートアップエコシステムへの理解度は成熟し、社会における理解度やスターツアップにまつわる文化も変わった。しかも思ったより早く。
日本には必要な素材がすべて揃っている。優れた人材、層の厚い企業群、世界的に認知されているグローバルブランド。ただ、20年前のフランスと同様に、失敗とリスクに対する文化的な態度がまだ変わりきっていない。その非対称性こそが、私が日本でのアーリーステージ投資を「世界で最も魅力的な非対称リターンの機会」つまりブルーオーシャンだと呼ぶ理由です。
現場のリアル、エコシステムの三つのブレーキ
IPO信仰、個人の富の不在、セカンダリーマーケットの実質欠如。三つのブレーキが、日本のスタートアップエコシステムの成長を遅くらせている。
日本ではM&Aが長らく「二番手の出口」として扱われ、IPOこそが目指すべき道とされてきました。
私自身、2019年にCOOとして参画していたFintechスタートアップのMakeLeapsを株式会社リコーにM&Aで売却したとき、LinkedInでは英語圏の知人から「おめでとう!」などと祝福の声が相次いだのに対し、Facebookでの日本人の反応は「もっとやれると思っていたのに」「志半ばでやめてしまったのか」という声も少なくなかった。日本の「IPO信仰」は、ここ6年で変わりましたか?
2016年ごろに日本でのVC投資を始めたとき、会うVCすべてに「どんなエグジットを想定していますか?」と聞いて回りました。答えはほぼ例外なく「IPO 90%、M&A 10%」。欧米はその逆なんです、「M&A 90%、IPO 10%」。この差は途方もなく大きく、エコシステム全体に複合的な影響を及ぼします。
なぜこれが重要な話なのか。
日本の典型的なIPOは、数十億円規模の時価総額で東証グロース市場に上場します。ファウンダーは大きなシェアを保有したままだが、株式をすぐ売れない、現金化できない。ゼロから新たなプロダクトを作り、課題を解決し、新しい価値を生み出す稀な才能を持つ人たちが、今はIRや規制対応、、つまり管理業務に忙殺されがち。こういう道を歩んだファウンダーで、本当に幸せそうな人を私はほとんど知らない。最高のファウンダー達に手錠をかければ、彼らは次の新たなビジネス、新たな価値を作れなくなる。
人材の循環問題ですね。
その通りです。スタートアップ・エコシステムの成熟サイクルにおける、第一のメカニズムと呼んでもいい。フランスの今日のユニコーンのうち70%以上は「Repeat Founder(連続起業家)」が作ったものです。一度失敗した、あるいは小さなエグジットを経験して、二度目・三度目に大きなものを作り上げた人たち。このサイクルが成立するのは、人材がまたスタートアップエコシステムに解放されてこそ。M&Aはそれを可能にする。MakeLeapsの例がまさにそれです。ファウンダーはエグジットを果たしエンジェル投資家になり、一部のメンバーは継続・イノベーションのために残り、プロダクトはより大きな販路を得て提供価値の規模を広げ、そしてまた一部の人材はスタートアップ・エコシステムに戻り新しいスタートアップの立ち上げに着手した。
しかし、M&Aにはもうひとつの側面があって、これが意外と語られない。個人の富の創出効果です。スタートアップが買収されると、ファウンダーや経営チームは多くの場合、比較的短期間でキャッシュを手にします。時には人生を変えるほどの額を。これが重要なのは、日銭を稼ぐための仕事に頼らずに再び起業できるようになるからです。自身や家族の生活の経済的安定と新しい挑戦のどちらかを選ぶ必要がなくなる。リスクをもう一度とれる。これが連続起業家を生む仕組みです。経験も資金も積み上げて、二社目・三社目を作る人たち。IPOではこれが実現しない。紙の上の富は実在するが流動性がない。拘束される期間は実在する。株主への義務も実在する。上場したファウンダーは決して自由ではない。
つまり、今のは資本の循環問題であり、第二のメカニズムですね。
セカンダリーマーケットについても意見を聞かせてください。以前、とあるスタートアップ元CFOと話したとき、彼は「日本ではセカンダリーマーケットはほぼ存在しない」と嘆いていましたが、今はどうですか?
第二メカニズムのもうひとつの側面として、日本にはほぼ存在しないと言っていいのが、未上場株式のセカンダリーマーケットです。セカンダリーマーケットとは、既存株主、例えばアーリー投資家、エンジェル投資家、あるいはファウンダーや従業員が、IPOやM&Aといった公式なイグジットをする前に、レイターステージの投資家に自分が保有している未上場株式を取引できる市場のことです。その取引において新株は発行はされず、会社に追加資金は入らない。純粋に資金の流動性を高めるメカニズムです。これがスタートアップ・エコシステムにおける資本の循環において、極めて重要な役割を果たす。アーリーステージの投資家がシリーズBやCで一部ポジションを売れれば、予定より早くLPに資本を還元できる。そのLPは、次のシードファンドに再投資できる。アーリーステージの投資にまた資金が割り当てられるようになり、より多くのスタートアップが生まれやすくなる、即ちエコシステム全体の成熟サイクルが加速する。セカンダリーマーケットがなければ、そのアーリーステージ投資の資本はファンドライフサイクルの10年間ほど塩漬けになります。投資家は待ち続け、LPも待ち続け、最も重要なアーリーステージへの投資機会は失われていく。
日本政府が掲げる「ユニコーン100社」の目標。仮に、フランスが4万社の起業でユニコーン40社を生んだデータからの例で逆算してみると、100社のユニコーンには、約10万のスタートアップを生み出すためのシードステージへの投資が必要でしょう。現在のIPO 90%、M&A 10%という日本の実態では、その目標値には届かない。
IPOを理想的なエグジット戦略とする文化では、最も重要な人材、新しいものを作ろうとする、野心的で反骨精神を持つファウンダー人材に手錠をかけてしまうことになります。
変わってきているとは思います。ただ、私の目に入るものにはバイアスがかかっている可能性もある、M&Aを正当なエグジットとして認めるファウンダーが、私を見つけてくれているだけかもしれない。それでも構造的な変化の力も動き始めています。今は2013〜2015年ごろに設立されたファンドが10年のライフサイクル末期を迎えてきて、LPに還元できていないケースも出始めている。LPはVCにプレッシャーをかけ始めている(いつ還元されるのかと)。それに応える形で、日本でセカンダリーファンド(*3)が生まれつつあります、1社は外資系、もう1社は外国人主導の国内系。第一世代のVCファンドがフルサイクルを経験するとき、エコシステムは学ぶ。
*3) セカンダリーファンドとは、主にプライベート・エクイティ(PE)ファンドなどが保有する未公開株や投資持分を、満期前(運用期間途中)に投資家から買い取る投資ファンドです。主な目的は、既存投資家の早期資金化(流動性確保)と、後継投資家の期間短縮による投資効率向上です
投資哲学と実践
保守的な事業予測は、レッドフラグだ。
マークさんが書かれているRudeVCというブログでは、ベンチャーキャピタルの「不都合な真実」をよく取り上げていますね。投資を評価するとき、必ず立ち返る問いはありますか?
いくつか学んできたことがあります。一つ目に確認するのはまず、ファウンダーが本当に実現したいことは何か?口で言っていることではなく、実際の行動はどうなっているか。「7年後のIPOを目指す」と答えるファウンダーがよくいますし、ケーシーのように「今うまくいっているビジネスがある。でも世界は変わり始めている、自分で創造的破壊をしていきたい」というファウンダーもいます。どんなファウンダータイプなのか?
二つ目に見るのが、「事業予測はアグレッシブか?」、私はそうあるべきだと思います。私はファウンダーに必ず言います「保守的な予測はいらない。最もアグレッシブなシナリオと、どうやってそこに到達するかを見せてくれ」と。本当にアグレッシブなら50%未達でも、保守的な予測の10倍は達成している。数字を低く見せるのはレッドフラグだ、野心の低さか、信頼の欠如か、どちらかです。
三つ目、そしておそらく最も重要なのが「どんな人をチームに採用しているか?」。自分より優れた人材を主要な領域に集めようとするファウンダーは、MoxieとHumilityを同時に体現しています。これらの組み合わせが、私が知る中で最も明確にポジティブなシグナルです。
なぜZooKeepに投資したのか
「今のビジネスを、自分で創造的破壊していく」その一言で、マークは賭けを決めた。
ZooKeepのファウンダーであるケーシー・エーベルとの出会いを教えてください。毎年数百ものピッチを見る中で、何が際立って見えましたか?
実は最初は間接的な出会いでした。あるヨーロッパの友人から「日本でこういう採用ニーズがある」と連絡が来たので、私は日本の知人を紹介し、その知人がケーシーをヨーロッパの友人に繋いだ。数ヶ月後、そのヨーロッパの友人からお礼のメッセージが来た。単なる御礼ではなく、ケーシーがどれほど助けになったかと熱く語ってくれていた。最終的には日本での展開を見送ることになったにも関わらず、ですよ。どうやらケーシーは採用マターの相談に答えただけでなく、彼らが考えてもいなかった5つの事業展開に関するアイデアまで提示していた。
「これはケーシーに会ってみなければ」と直感し、実際に会ってみたら評判通りの人でした。次に、彼はShizen Capitalの共同創業者でもあるマシュー・ロメインと私のもとに来て、一種の「ファウンダーとしての告白」をしたのだ。「今の人材紹介ビジネスはうまくいっている。でも世界は変わり始めている、そして自分で変えていきたい。」それが前に述べたバイブズ・カーテルの哲学です。創造的破壊の本能。私たちはそこに賭けることにしました。
9ヶ月かけてデューデリジェンスしたか?していません。当時プロダクトはほぼ存在すらしていなかった。でもアーリーステージのスタートアップで本当に新しいものに投資するなら、まだ存在しない市場のサイズを計算しようとするのは机上の空論です。私たちはファウンダーへの確信に賭けて、あとはどう動くかを見る。
ケーシーは人を見る目が鋭い。そして、その優秀人材を引き寄せる力がある。主要な領域で自分より優れた人を採用し、それを喜んで称える。それが本物のリーダーの証です。
Shizen Capitalの投資哲学は一言で言うと何ですか。ZooKeepはどのように当てはまりますか?
Shizen Capitalはあえて規模は小さくしています。ファンド規模5000万ドル未満、アーリーステージ、現在55社のポートフォリオ。すべてのファウンダーのための何でも支援しようとはしていない。MoxieとHumilityを兼ね備えた人、賭けに出る大胆さと自分に何が必要かを知る自己認識を持つ人、を探しています。
ZooKeepはまさにその投資テーゼに合致している。ケーシーは最初からその両方を示してくれた。それ以降に彼が集めたチームも、さらなる証拠です。因みにZooKeepは私たちのポートフォリオの中でも、初期の事業予測を実際に上回ってきた数少ないスタートアップのひとつだ。これは運ではない、最初の顧客が誰で、いくら払いそうで、どう獲得するかを最初から分かっていたファウンダーの力です。
マークさん、今日はインタビューに時間を割いて頂きありがとうございました!
おまけ:マーク・ビベンズのお勧めコンテンツ
世界観や思考法に強く影響を与えた本、映画、人物、アーティストはありますか?
映画は二本、どちらもレゲエつながりです。
一つは、1972年の『ザ・ハーダー・ゼイ・カム』、ジミー・クリフ主演。ジャマイカの田舎からキングストンに出てきてミュージシャンとして成功を夢見る男の物語。サウンドトラックは史上最高クラスです。
もう一本は昨年公開(2025年)のボブ・マーリーの伝記映画『ONE LOVE』。どちらもいいサウンドシステムで観てください。
音楽以外のお勧めでは、クレイトン・クリステンセン著書の『イノベーターのジレンマ』。答えが書いてあるからではなく、正しい問いが書いてあるから。なぜ成功した企業は自分を破壊することがこんなにも難しいのか?答えは、自分たちが築いてきたすべてのインセンティブがそれに抵抗するからです。その緊張関係こそ、私がこれまで関わってきた面白い投資のほぼすべての核心にある。
よくある質問
スタートアップ・エコシステム循環速度とは何ですか?
スタートアップを量産するエコシステムのキードライバーとなるリソースは何なのか。またそのリソースの循環を妨げているのは何か。マーク氏がフランスと日本で約25年以上のVC経験から導き出した答えは、スタートアップ・エコシステム循環速度というコンセプトに集約される。
ここでいうスタートアップ・エコシステム循環速度とは、エグジットのたびに流出した人材と資本がスタートアップ・エコシステムへ戻ってくる速度のこと。Shizen Capitalのマーク・ビベンス氏は三つのメカニズムを挙げる。①M&Aエグジットによるファウンダーの解放と再起業、②買収がもたらすキャッシュによるファウンダーの経済的自立、③セカンダリーマーケットを通じた資本の早期還元とシードへの再投資。この三つの循環速度こそが、世界水準のVCエコシステムを作る最重要変数だ。
スタートアップのセカンダリーマーケットとは何ですか?
既存株主(アーリー投資家、エンジェル、ファウンダー、従業員など)が、IPOやM&Aエグジットする前にレイターステージの投資家へ株式を売却できる市場のこと。リスクマネーの流動性を高めるメカニズムだ。アーリーステージの投資家がシリーズBやCで一部の保有株を売却してLPに資本を戻し、そのLPが次のシードファンドに再投資できる。日本ではこの市場がほぼ機能しておらず、それ自体がエコシステムの循環を阻む構造的な障害になっている、とマークは指摘する。
失敗文化とは何ですか?
スタートアップの失敗を「学習の実績」と見るか「永続的な欠格事由」と見るか、という社会の姿勢のことだ。シリコンバレーや現代のフランスのように失敗文化が根付いたエコシステムでは、一度失敗したファウンダーはむしろ次の投資対象として評価される。逆に失敗文化が弱ければ、スティグマが挑戦を抑制し、スタートアップの総数を押し下げる。マークは、失敗文化も「ユニコーン100社」達成に必要だと断言する。
日本の「ユニコーン100社」目標とは何ですか?
2022年に日本政府が打ち出したスタートアップ育成5か年計画の中核目標。時価総額10億ドル以上の未公開企業を2027年までに100社輩出することを目指す。M&Aを正当なエグジットとして定着させ、失敗を実績として再評価し、人材と資本の循環を加速させる。その三つが揃って初めて、時期はさておき、100社輩出の目標は現実味を増す。
なぜ日本のスタートアップエコシステムはM&AよりIPOを好むのですか?
上場が「正当性・信頼性の社会的証明」とみなされてきた文化的背景がある。M&Aは長らく「二番手の結果」扱いだった。しかしこの構造がエコシステムの循環を止めている。ファウンダーは上場後のIR対応やその他管理業務の義務に縛られ、優秀なファウンダー型人材はエコシステムに戻れず、アーリー投資家は長い待機を強いられる。マークは、M&Aがスタートアップのエグジットの90%を占める欧米市場のように、M&Aを主流の出口戦略として定着させることが、連続起業家を量産する道だと断言する。
Shizen Capitalの投資テーゼとは何ですか?
東京を拠点とするアーリーステージ特化のVC。ファンド規模は意図的に5000万ドル未満に抑え、フォーカスと確信を維持する。投資基準はマーク氏が「Moxie & Humility Framework」と呼ぶ資質、非対称な賭けに出る大胆さと、自分の限界を補うチームを作る自己認識力。第1号ファンドはDPI 3.5倍、TVPI 17倍。
Shizen CapitalはなぜZooKeepに投資したのですか?
ファウンダーのケーシー・エーベルが創造的破壊型のファウンダーを体現していたからだ。成功している人材紹介ビジネスを持ちながら、「市場に変えられる前に自分で作りに行く」という意志を持ってやってきた。マークがもうひとつのシグナルとして挙げるのは、ケイシーの人材発掘・獲得能力、つまりMoxie & Humility Frameworkの核心そのものだ。
登壇者プロフィール
マーク・ビベンズ(Mark Bivens)| Shizen Capital マネージング・パートナー Shizen Capitalのマネージング・パートナー。東京を拠点とし、日本のスタートアップに特化したアーリーステージVC。シリコンバレー出身、電気工学を学びノースウェスタン大学ケロッグ・スクール・オブ・マネジメントでMBAを取得。VC転向前に3社のテック企業を創業。フランスのTruffle Capitalなどで15年間欧州VCに投資した後、2017年より日本での投資を開始。Shizen Capital第1号ファンドは55社のポートフォリオでDPI 3.5倍・TVPI 17倍を達成。VC・スタートアップ戦略・日本のイノベーションエコシステムを扱うブログ「RudeVC」を執筆。トライアスリートであり、長年のレゲエミュージック愛好家でもある。 郡司史徳 | ZooKeep株式会社 Head of Marketing(マーケティング責任者) ZooKeep株式会社のマーケティング領域を統括。ZooKeepは、採用管理システム(ATS)、AIソーシング、人事・タレントマネジメントコンサルティング、そして採用戦略と実行支援を一体化したプラットフォームです。採用を「バックオフィス業務」ではなく「経営戦略の中核」として再設計することを支援するHRテック系のBPaaS企業。以前、郡司氏は日本の大手企業向け新規事業開発の支援を専門とするコンサルティング会社、SoftBank Robotics(立ち上げ期から国際展開まで)、MakeLeaps(COO就任後M&AによるイグジットおよびPMI期間2年間を管掌)を経て、米国HRテックユニコーンDeelにてAPACパートナーシップマネージャーを務めた後、現職。 |
